こんにちは。町の小さな看板屋を営んで、気づけば20年。
これまでに大小さまざまな看板を作ってきましたが、振り返ってみると、笑えるような“失敗”もいくつかありました。
今日はその中から、「今となっては笑えるけど、当時は冷や汗をかいた」そんなエピソードをひとつご紹介します。
■事件は、ある飲食店のオープン前日に起きた
その日、私は某市内で新しくオープンするイタリアンレストランの看板設置に向かっていました。
店主は30代前半の若い男性。デザインにもかなりこだわっていて、店名のロゴも完全オリジナル。
打ち合わせを重ねて、黒を基調にしたスタイリッシュなファサード看板を製作することになりました。
施工前日、「明日はいよいよ納品&取り付けだ」と、看板を積んだトラックを点検していたときのことです。
助手がふと、看板を見ながらつぶやきました。
「……あれ? 店名、これで合ってましたっけ?」
私は「え? 合ってるでしょ。『Trattoria Sole(トラットリア・ソーレ)』でしょ」と答えました。
が、助手がスマホを見ながら言いました。
「いや……打ち合わせの資料、これ見てください。“Trattoria Sole”じゃなくて、“Trattoria Soleil”になってます。」
■一文字違いが、致命的な誤植に
「Sole(ソーレ)」と「Soleil(ソレイユ)」。
イタリア語とフランス語、どちらも“太陽”という意味ですが、まったくの別物です。
そして恐ろしいことに、すでに製作・塗装・仕上げまで終わっていた状態。
急いでメール履歴やデザインデータを確認すると……確かに「Soleil」と記載されていました。
完全に私のチェックミスです。
■社内は一瞬で凍りついた
看板は幅3メートルのアルミ複合板に塗装仕上げ、ロゴはカルプ文字で立体的に貼り付け。
「Sole」の部分だけ削ってやり直す、というレベルでは済みません。
オープン前日。
お客様はすでにSNSでオープン告知、看板デザインまで投稿済み。
まさか「看板が間違ってました」とは言えない……。
正直、頭の中が真っ白になりました。
■選んだのは「即・作り直し」&“必死のお願い”
すぐにスタッフ総出で新しいパネルの製作をスタート。
業者さんにも無理を言って材料を即日再手配し、夜通し塗装と加工を進めました。
その間、私はお客様に正直に事情を説明しました。
覚悟して電話をしたのですが、意外にも若い店主さんは苦笑しながら一言。
「いや〜それ、ちょっと迷った名前だったんですよ。最初“Sole”にしようかと思ってたくらいで(笑)」
心が救われました……。
■翌朝、ギリギリ間に合った
早朝5時、看板が完成。
車に積み込み、まだ暗い中を現場へ直行。
午前8時には無事設置が完了し、オープンには間に合いました。
店主さんも「いや〜これもいい思い出になりますね」と笑ってくれて、
お礼にとパスタランチをごちそうになりました。
■今となっては笑い話。でも、教訓は深い
この出来事以来、**最終確認は「1文字単位で目視確認」**を徹底しています。
そして、製作前の「文字校正チェックシート」を必ずお客様とダブルチェックするようになりました。
看板って、**ただの表示板ではなく、お店の“顔”**です。
名前を間違えるなんて、名刺の名前を間違う以上に失礼なこと。
だからこそ、慎重すぎるくらいの確認が大切なんだと身に沁みた出来事でした。
■そしてその後…
余談ですが、数年後にそのお店が移転することになり、
再び看板のご依頼をいただきました。
そのとき店主さんが言っていた一言。
「今度は“読みやすい名前”にしようかな(笑)」
私:「やめてください、プレッシャーになります(笑)」
こうして、今もそのお店との付き合いは続いています。
失敗は怖い。でも、ちゃんと向き合えば、信頼につながることもある。
それが看板屋としての、ちょっと誇らしい経験だったりもします。
まとめ:失敗も、プロとしての“引き出し”になる
看板屋をやっていると、思いがけないトラブルやヒヤッとする瞬間はつきものです。
でも、それをどうリカバリーし、次につなげるかがプロとしての腕の見せどころ。
これから看板を作る方へ。
もし迷うことがあったら、どんな小さなことでも遠慮なく相談してください。
なぜなら、「言葉」や「文字」の一つひとつが、看板では命だから。
そして私たちも、二度と「Sole」と「Soleil」を間違えないよう、肝に銘じています。